当院の透析患者と医療従事者におけるCOVID-19ワクチンブースター接種前後のIgG抗体価の検討

当院の透析患者と医療従事者におけるCOVID-19ワクチンブースター接種前後の
IgG抗体価の検討

 

透析患者さんでは新型コロナウイルス感染による重症化リスクや致死率が高いため、一般的な感染予防対策、早期発見早期治療とともに、ワクチン接種が重要です。

ワクチン接種による感染予防効果はスパイク蛋白Ig G抗体価と相関することが知られている1)ため、当院の透析患者さん(HD群)と医療従事者(健常群)に、3回目のワクチン接種(ブースター接種)前後でスパイク蛋白Ig G抗体価の測定を行い、抗体価に影響を与える因子を検討しました。

3回目は透析患者さんにはモデルナ社製ワクチンが配分され、医療従事者にはファイザー社製ワクチンが配分されました。

 

 

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健常群ではファイザーワクチン接種後に抗体価が中央値で34.7倍上昇し、676→23,475AU/mLとなりました。

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これに対してHD群ではモデルナワクチン接種後に抗体価が中央値で108.1倍上昇し、275→29,737AU/mLとなりました。

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3回目接種前(2回目接種6ヶ月後)の抗体価をHD群と健常群で比較すると、HD群では健常群の約40%と、統計学的に有意に低い傾向を認め、過去の報告2),3)と一致した結果でした。

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これに対して、3回目接種1ヶ月後では統計学的に有意ではないものの、H D群が健常群を逆転し、HD群の方が高値となりました。

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HD群の抗体価に影響を与える因子を検討したところ、3回目接種前では年齢が60歳以上では60歳未満と比較して抗体価が有意に低く、ステロイド内服者では抗体価が有意に低いことが分かりました。
3回目接種1ヶ月後では年齢との関連は消失していましたが、ステロイド内服者では引き続き有意に抗体価が低い傾向を認めました。

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接種前抗体価は年齢が高くなるほど低い傾向を認めました。

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接種後抗体価と年齢との相関は認めませんでした。

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BMIと抗体価との相関を見たところ、全ての患者さんでは相関を認めませんでしたが、BMI<30に絞って相関を見たところ、BMIと接種前抗体価には有意な負の相関を認めました。

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接種後抗体価も、同様に負の相関を認めました。

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              ― 4回目接種後の追加データ ―

 

さらに、当院では国の方針に従って3回目接種5ヶ月後にHD群、健常群ともに4回目のワクチン接種を行いました。4回目もH D群はモデルナ、健常群はファイザーワクチンを接種しました。抗体価は3回目接種3ヶ月後、5ヶ月後、そして4回目接種1ヶ月後に測定しました。

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その結果、3回目接種以降は1ヶ月後、3ヶ月後、5ヶ月後で徐々に抗体価が低下していましたが、どの時期でも一貫してH D群が健常群を上回り、4回目接種1ヶ月後では、HD群の抗体価は38,418AU/mLと3回目接種後のピークの約1.3倍まで上昇し、健常群の4回目接種1ヶ月後と比較しても約1.6倍以上と大きく上回っていました。

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冒頭で述べたように、透析患者さんは新型コロナに感染すると重症化リスクが高く、これはオミクロン株になってからも同様で、2022年1月〜6月の第6波での致死率は一般人口0.3%に対して透析患者さんでは3.0%と約10倍です。

しかし、ワクチン3回接種後の透析患者さんの致死率は0.83%(6/726人)と大幅に低く、透析患者さんでの3回のワクチン接種の重要性が明らかとなっています4)

オミクロン株になってからは以前と比べて致死率が低下したたため、現在社会全体ではコロナと共存する方向に舵が切られ、ワクチン接種率も低下してきています。

今回透析患者さんへの3回目、4回目のワクチン接種後の抗体価を検討しましたが、透析患者さんでは3回目以降から抗体価が上昇しやすくなることが明らかになりました。今後も透析患者さんは然るべき時に新型コロナワクチンを接種することをお勧めします。

 

1) Bergwerk M, Gonen T, Lustig Y, et al. Covid-19 breakthrough infections in vaccinated health care workers. N Engl J Med. 2021.

2) Grupper A, Sharon N, Finn T, et al. Humoral response to the pfizer BNT162b2 vaccine in patients undergoing maintenance hemodialysis. Clin J Am Soc Nephrol. 2021 Jul;16(7):1037–42.

3) Agur T, Ben-Dor N, Herman-Edelstein M,  et al. Longevity of Humoral Response Six Months Following BNT162b2 Vaccine in Dialysis Patients.Front Med (Lausanne). 2022 Mar 25;9:781888.

4) 日本透析医会・日本透析医学会・日本腎臓学会新型コロナウイルス感染対策合同委員会. 透析患者における累積の新型コロナウイルス感染者の登録数(2022年6月16日16時 時点)http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/03_info/doc/corona_virus_infected_number_20220617.pdf