第38回栃木県透析医学会に参加しました。

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9/26(土)、獨協医科大学で開催された、栃木県透析医学会に参加しました。
当院から奥田院長が「検査・合併症」セッションで座長を務めました。また「透析困難症に対する前希釈オンラインHDFの効果」「透析患者におけるクエン酸第二鉄水和物(FCH)の鉄動態への影響と貧血改善効果の検討」「透析患者におけるクエン酸第二鉄水和物(FCH)の便秘改善効果の検討」の3演題を技術部・検査部・栄養部で報告しました。


①透析困難症に対する前希釈オンラインHDFの効果
○越井正太郎 一杉政弘 新井美明 村山勉 田崎浩孝 歌田智也 岩波沙織 井上靖宏
古沢幸男 増渕里美 高橋秀明 奥田康輔

【目的】透析困難症の患者に対して前希釈オンラインHDF(以下preHDF)はどの程度、またどのように有効かを検討する。

【対象】当院にて透析困難症を認める患者6名(平均年齢79.7歳、平均透析歴7年5か月、男性3名、女性3名、DM2名、非DM4名)

【方法】血液透析(HD)からpreHDF(totalQD 500ml/min, Qd 350ml/min, Qs 150ml/min, MFX-15E)に変更し、preHDFへの変更前後30セッションでの治療中の処置(下肢アップ、補液、除水停止、時間除水量低減、早めに終了)回数、血圧(透析前血圧、最低血圧、透析後血圧、血圧低下率)を調査した。また、この間のBUN, Cr, Ca, P, Hb, Alb, Kt/V, ドライウェイト(DW)、ESA投与量、CTRの平均値も合わせて検討した。統計解析は対応のあるt検定とし、P<0.05を有意とした。

【結果】HD期からpreHDF期で、1回の治療中の処置は平均1.38±0.67回→0.64±0.34回へ有意に減少(P<0.05)し、透析前血圧は平均128±19→144±22mmHgと有意に上昇した(P<0.05)。最低血圧、透析後血圧はそれぞれ平均101±14→115±17mmHg, 123±14→137±20mmHgと上昇傾向を示したが、有意ではなかった(P=0.070, P=0.056)。血圧低下率は20.4±11.0→19.0±6.5%とやや減少傾向を示したが、有意ではなかった(P=0.346)。その他各種データ、総除水量、DW、ESA投与量、CTRはいずれも有意な変化は示さなかった。また1症例でオンラインHDFに変更後3ヶ月で4.9kgのDW増加があり、オンラインHDFによる食欲増進が示唆された。

【結論】preHDFは透析困難症の患者に対して有効であることが確認された。透析前血圧が有意に上昇しており、等張液の補液による透析中の血圧安定化作用のみでなく、心機能改善など他の要因が関連している可能性が示唆された。


②透析患者におけるクエン酸第二鉄水和物(FCH)の鉄動態への影響と貧血改善効果の検討
○古澤洋一 中野紗希 高橋梓 大盛千恵 遠藤佳緒里 新井和恵 神山康子 小原梢
高橋秀明 奥田康輔

【目的】鉄含有の新リン吸着薬、FCHのリン吸着効果と鉄動態の変化及び貧血改善効果の検討。

【対象】当院維持透析患者37名(男性23名,女性14名,平均年齢64.0歳,平均透析歴12.8年,DM15名,非DM22名)を対象とした。ESA製剤を使用しており、1年以内に鉄剤使用歴のある高リン血症患者でFCHを新規に開始、もしくは他のリン吸着剤から切替えた。塩酸セベラマー,ビキサロマーで便秘がある患者,炭酸カルシウム3g/日以上内服している、または補正Ca9.0mg/dL以上の患者は積極的にFCHに切替えた。

【方法】FCH投与量は750~1500mg/日に留めた。FCH開始前と開始後1,2,46ヶ月の血清P,補正Ca,iPTH, Hb,フェリチン,TSAT,ESA,フェジン投与量を検討した。またリン吸着効果は各リン吸着剤の1日当たりの投与量を各薬剤の力価で補正し、総合スコア化としてその経過を調査した。FCH中止条件は腹部症状とフェリチン≧300ng/mLとした。

【結果】FCH投与前後半年間で血清P,補正Ca,iPTHに有意差なくリン吸着剤スコアにも変動なし。TSAT,フェリチン,HbはFCH投与後有意に上昇し、フェジン投与量は有意に減量出来た。ESA投与量はFCH開始1ヶ月より減量し、2ケ月以降も有意に減量出来た。副作用で37名中8名が中止した。

【考察】血清Pとリン吸着剤スコアに変動がなかった為、FCHのリン吸着効果は切替え設定相当の効果ありと考えられた。貧血改善効果は含有鉄成分が影響し、ESA,フェジン減量に繋がったと考えられた。FCH少量投与でもフェリチン過剰となった症例もあったため、鉄動態のモニターは必要である。


③透析患者におけるクエン酸第二鉄水和物(FCH)の便秘改善効果の検討
○遠藤佳緒里 大盛千恵 新井和恵 神山康子 小原梢 古澤洋一
高橋秀明 奥田康輔

【目的】新規リン吸着薬クエン酸第二鉄水和物(以下FCH)には、約10%に下痢の副作用が見られる。また一般に透析患者は便秘傾向にあり、特にポリマー系のリン吸着剤にて便秘の副作用を認めることが多い。FCHの下痢の副作用が便秘及び、下剤の服用量にどの程度影響を及ぼすか検討した。

【対象】当院維持透析患者37名(男性23名、女性14名、平均年齢64.0歳、平均透析歴12.8年)で、ESA製剤を使用しており、1年以内に鉄剤使用歴のある高リン血症患者を対象とした。塩酸セベラマー・ビキサロマーで便秘がある患者、炭酸Ca3g/日以上内服、または補正Ca9.0mg/dL以上の患者には積極的にFCHに切り替え投与した。

【方法】対象患者にFCH750~1500mg/日を投与。投与開始前と開始後1,2,4,6ヶ月の血清P、補正Ca、iPTHの測定値を検討した。FCHのリン吸着効果は、それぞれのリン吸着剤の吸着能に応じて、炭酸カルシウム(500)1T、炭酸ランタン(250)1Tをそれぞれ4点、塩酸セベラマー(250)1T、ビキサロマー(250)1Cをそれぞれ1点、FCH(250)1Tを2点としてスコア化して検討した。便秘の改善効果をRomeⅡアンケートで調査、下剤量とともにスコア化して評価し、FCHの副作用も調査した。

【結果】FCH投与前後でリン吸着剤スコアに変動なく、血清P、補正Ca、iPTHの経過にも有意差はなかった。便秘改善度全体では有意差は見られなかったが、硬い便の経験を問う設問において、開始2ヶ月後で有意に低下し軟便化の傾向を示した(0.8→0.3スコア:P<0.05)。FCH自体の便秘改善効果を検証するため、ポリマー系リン吸着剤を減量・中止した群(A群)、変更なし群(B群)にわけ、下剤量と便秘スコアを合わせて検討した結果、A群(10.1→5.5スコア:P<0.05)では便秘改善効果がみられたが、B群(6.2→4.3:NS)では有意な改善効果はみられなかった。対象者10%に下痢の副作用を認めた。

【考察】便秘を認める患者でポリマー系リン吸着剤からFCHへ変更することで有意な便秘改善効果を認めたが、FCH自体には有意な便秘改善効果を認めなかった。副作用で10%に下痢を認めるため、投与の際は腹部症状に注意していく必要がある。